企画展第6弾
甕覗の鏡 / Le Reflet du Ciel
中野良寿+澤登恭子展 / NAKANO Yoshihisa + SAWANOBORI Kyoko
2013年2月16日(土)〜4月21日(日)
土 sat, 日 sun, 祝 holiday,:11:00 - 18:00
週日 weekdayは予約制 by appointment:090-7384-8169
中野良寿+澤登恭子は山口在住のアーティストです。中野は、CO2や原発など現代社会で躓きとなっている環境や自然破壊の問題と向き合いながら、作品においては民間信仰や伝承など合理を超えた世界観と親和が可能な視点から世界を捉えようとしています。一方、澤登は伝説的なパフォーマンス「Honey, Beauty and Tasty」によって知られていますが、身体を通じて日常的な物質が神秘の領域に昇華し夢幻の時間につながる行為を作品としています。
甕覗は日本の伝統色で、藍を入れた甕に、僅かな時間、布を浸して淡い水色に染めたことに由来する色の名前ですが、甕に浸した水の表面が空の色を映して淡い青に見えることからこう呼ばれるようになったとも言われています。水の色も空気の色も、本来透明なのですが、甕を覗いて見える色は幻影のように青い。見えないものを映す鏡のような甕を覗くと、今度は中野+澤登の創り出す世界がかいまみえることとおもいます。
■イベント情報
「甕覗の鏡」スペシャル・トーク ーーーー 終了しました。
2013年4月6日(土)18:00−19:30
徳島県立近代美術館学芸員、吉川神津夫さんをお迎えして、中野良寿さん、澤登恭子さんとの3名でトーク・セッションを行いました。
このトークの内容は、吉川さんに展評「甕覗の鏡」としてまとめていただきました。
澤登恭子"HONEY TASTY BEAUTY"のパフォーマンスがシンマルマルビジュツカンの企画により、
八万湯プロジェクトにて行われます。
ハチマンユ食堂vol.2 『銭湯でライブも乙なもの!?の巻』
澤登恭子x諸岡光男xシンマルマルビジュツカン
日時 2013年4月21日(日)16:30 (開場16:00)
場所 八万湯 806-0067 北九州市八幡東区祇園1-12-14
入場料 大人1,000円(ワンドリンク付) 学生 500円(ドリンク無し)
なおこのイベントに引き続き、Operation Table/QMACにてクロージング・パーティがあります。
甕覗の鏡 クロージング・パーティ
2013年4月21日(日)18:30
会費 1,000円
■「甕覗の鏡」展覧会グッズができました。
Operation Tableオープン記念に誕生した〈手術台・ミシン・蝙蝠傘〉のピンバッジと同じく
STUDIO Yo-TooBEE謹製。
ルネ・マグリットの絵の中の空のように空を映している甕覗型のピンバッジと、
トンボ玉の2種、絶賛発売中です。
■オープニング・レセプション
2013年2月16日(土)18:00ー
会場 Operation Table
中野+澤登 アーティスト・トークあり
会費 1,000円
このほか会期中にパフォーマンスやライブも計画中です。
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甕覗の鏡
澤登恭子と中野良寿は2008年から実生活のパートナーである。二人の共作はアサヒビール芸術文化財団の企画である「わたしのお宝交換プロジェクト展」に出品された「La voiture en rose」(2003)があるものの、基本的に作家活動を行う上ではそれぞれの道を歩んできたと言ってよかろう。
今回はギャラリーからの打診により、初の二人展ということになったのだが、そのことを聞いて戸惑いを感じたものだ。なぜなら、二人の作品の現れ方は対照的なものであるからだ。澤登の映像作品は日本国内、それも彼女が生活する範囲で撮影場所を見つけているにもかかわらず、その土地の固有性はもちろん、日本国内であることさえ感じさせないものである。それに対し、中野の作品はその土地の歴史やそこに暮らす人々との関わりの中から生み出されたものが多いからである。
果たして、どのように折り合いをつけて展示しているのだろうと思っていたのだが、展示空間に違和感は全くなかった。しかも、二人展にあわせた作品を展示している訳でもなく、先に触れた「La voiture en rose」につながる新作「Inside of Fog-the way of EBINO plateau 2013」が出品されている以外は、二人のこれまでの作品の流れに沿ったものであった。唯一、別のスペースに展示されていた澤登の「Phantom-森の記憶」のみ、昨年に大阪のCASで開催された個展時と同じ映像が用いられていた。ただし、ギャラリーにあるミシンを組み合わせた異なるインスタレーションになっていたのである。
作品数は、澤登の作品が2点、中野の作品が8点、共作が1点。中野の点数が多いのだが、台や棚の上に展示された作品がほとんどで、数ほども空間に占める割合は多くない。また、澤登の映像と中野の写真とドローイングを除いて、ギャラリーの壁面がほとんど使用されていないため、空間の中で壁面の色が目に付くのも特徴である。会場のOperation Tableは元の動物病院だったスペースを転用したものだ。その壁面は薄い水色のタイルの部分と、それより少し濃い青色で覆われている。絵具で言えばホリゾン・ブルーに近いだろうか。そして、この壁面の色が、展覧会名の甕覗に結びついているのである。壁面(の色)が目に付くように残されたのも、意図的なものと考えられよう。
甕覗という色名には二つの説があるという。一つは藍を染めるのに、甕のなかに染料を入れて発酵させるので、その中に、極短時間浸して染め、淡い色を付けるということ。もう一つは甕に水を張っておいて、それに空の青が映っているものを、覗いて見た色というものである。
澤登、中野とも甕覗の色と由来に関心を持っており、この色をテーマとして二人で展覧会にしたいという考えは以前からあったという。そして、一昨年に初めてギャラリーを訪れた際、この壁面の色から甕覗を想起したそうだ。今回、二人展の打診があった時、甕覗をテーマにすることは必然だったのである。
甕覗という言葉は、このスペースと出会う以前から、「KAMENOZOKI- CO2」(2009)として中野のタイトルに登場している。中野は、伝統色辞典でこの語を見つけたそうだ。そして、日本の伝統色の名前では大方の色の名前が具体的な対象物の色味を名前の語源にしているのに対して、甕覗は甕の色ということではなく、色を見る主体が覗くという能動的な行為を行った結果見える色であることに興味を持ったという。そこから、名前の由来が甕の中に映った空の色だとしたら空と甕の中との間にある大気をも含んだ名前だと気づき、大気の成分であるCO2のことまで思いを馳せたとのことである。今回はギャラリー内外にあった様々な物を直接用いたり、写真にしたりした「CO2 - global obsession」という新作が3点出品されている。このタイトルは地球温暖化の原因であるCO2の削減が世界的な問題であることと結びつくものである。しかし、実際に中野の作品を見る限りでは、そのことを声高に主張しているようには思えない。むしろ、個々の作品に何らかの形で用いられている甕覗色もともなって、CO2排出に関わるエネルギーの問題をさりげなく気づかせているようである。
さらに、新作としては「I lost the way−甕覗色の隕石の降る日」という作品が台の上に複数展示されている。これらの作品は、中野が北九州に滞在する中で関心を持った場所の地図とそこに辿り着くまでに迷った道のりを示す小枝が組み合わされたものである。地図は透明なシートで、北九州と中野が暮らす山口の雨水を溜めたボウルの上に置かれ、その上に底面を甕覗に彩色された石が置かれている。この石が隕石なのである。中野自身が道に迷うことで生じる混乱や不安と隕石が降ることによって生ずる人々のそれとが重ねられることや、甕覗の隕石が降ってきたら水面に映るのは言葉の別の意味の甕覗であることなど、どこか洒落っ気を感じる作品である。「隕石が降る」という発想は映画から得たものだそうだが、2月にロシアに隕石が降ってきたのは周知のことである。それがこの展覧会のオープンする前日であったという。
一方、澤登の新しい映像作品は「空を呼ぶ水-L’eau est le reflet du ciel」と、まさに空の青を映す甕覗のことを言い換えたようなタイトルである。ロケ地はギャラリーの近くだそうだが、これまでの澤登作品と同様、画面からの特定は困難である。どこかの緑地帯に佇む女性の後ろ姿が右斜め上方からのカメラで映されているのだが、画面は次第に空が映り込むようになり、さらには水面へと変化していく。この様子がゆっくりと繰り返されるのだ。澤登には夢か現実かわからないような状態に対する関心があり、そのこととその時々の空の色を映す、何色か特定で甕覗に対する関心とが重ね合わされた作品と言えよう。さらに、この作品で注目されるのは音楽が用いられていることである。大音量のトランス・テクノと一体になったパフォーマンス「Honey, Beauty and Tasty」(1999初演)で注目を集めたにもかかわらず、澤登のこれまでの映像作品では音楽はもちろん音が使われることはほとんどなかったのだ。この変化について澤登は、自分に行為や表情が全面にでている映像作品では音は必要なかったのだが、今回のような動きのほとんどない映像作品では音が必要であったと述べている。もっとも、音楽もゆっくりとした静かなものであるのだが。また、様々な女性的なイメージを用いるという要素も希薄になってきたように見える。この作品に登場する女性は澤登自身なのだが、後ろ姿なので誰かは特定できるものではなく、おそらく女性だろうと推測できるくらいなのだ。この変化も意識的なものかと澤登に問うと、決して変化しているのではなく、展覧会前には別のプランも検討していたという。何より、展覧会最終日には、別会場とは言え、新作の静かな印象とは全く異なる「Honey, Beauty and Tasty」を再演することが、そのことを裏付けていよう。
二人の共作についても触れておこう。かつて「La voiture en rose」において、東京から宮崎のえびの高原まで車で巡って映像作品を制作したのであるが、今回の「Inside of Fog-the way of EBINO plateau 2013」では、北九州のOperation Tableが出発地で、目的地のえびの高原だけが共通しているものだ。ただ、前作とは異なる点も多く、部分的に過去の行程を辿り直したというよりは、新作と行った方が良いものである。最初に述べたように、澤登と中野とでは場所に対する関わり方が全く異なっている。この作品のように道路脇の標識で具体的な地名が明らかにしながら移動するプロセスを作品にすること、その土地で偶然出会った枯れた椰子の葉や霧の様子を作品に取り込み、映像と共に組み合わせて見せることは、一見中野の要素のように思える。しかし、その土地らしさと感じるものと言えば、目的地である宮崎の椰子くらいである。道路標識など場所は示しても物は全国共通であるし、何より、道に迷うプロセスまで作品に取り込む中野の移動方法ではあるまい。一方、BGMは澤登がi-phoneで選択した世界各国の色々なラジオ局から流れる音楽であり、時々風景が九州のものではないような印象を受けたものだ。それぞれの作品を思い起こす要素がありながらも、個人の作品とは別のものとなっている。二人の共作はこのような作品になるのかと、興味深く見たものだ。
最後に、今後も二人展の可能性があるのかと中野に問うたことに対する返答を紹介しよう。要約すると以下の通りである。
このレジデンスの最中に、インドにブルーシティー(ジョード プール)という街全体が水色(甕覗)に輝く都市があることを知った。この町の建物群の写真を見ていると、どこかOperation Tableを思い出す懐かしさを感じるので、いつか、二人で訪れて、そのドキュメントを発表してみたい。
そのいつかを期待して待っていたい。
吉川神津夫
*特に制作年を記していない作品は今年の作品である。なお、「Phantom-森の記憶」は同名で昨年の個展に出品されているが、インスタレーションが異なることから今年の作品とみなした。