展評を展覧会実行委員の進藤真世美さんに寄せていただきました。また会期中イベントとして11月15日に行われた鈴木淳さんのトークとパフォーマンスの記録動画をUPしました。
遠賀川神話の芸術祭2025
「やはたアートフォレスト~パレットの樹~」関連企画として継続し、八万湯プロジェクトとの連携で企画してきた「遠賀川神話の芸術祭」は、今回から遠賀川神話の芸術祭実行員会の主催となり、例年のように八幡駅~東田周辺の施設やOperation Tableを会場とするほか、Operation Table近くのカフェ、mama福や、若松のベラミ山荘(イベント開催日の1日のみ)、山福印刷跡(イベント開催日の1日のみ)が加わり開催することになりました。
遠賀川流域は大陸との位置関係が近く、歴史、産業、文化的に重要な場所でした。「遠賀川神話の芸術祭」は遠賀川流域の本質や文化交流を検証し、地域固有の芸術表現を生み出してきました。今回も北九州周辺地域のアーティストの交流の場とした展覧会となります。
参加作家は、河村陽介、鈴木淳、鶴留一彦+森秀信、ナカムラタツヤ、福地英臣、松野真知のレギュラー・メンバーに加え、スエーデン在住で10月はじめまで一時帰国していた武内貴子が遠賀川土器に題材を得た新作をこの展覧会のために制作しました。また京都在住で、石炭や地熱エネルギーに関連したリサーチワークを実施する野村由香、広島在住で、鉄を主題とした映像やインスタレーションほか鉄の立体作品でも知られる山本聖子、仏像のような気高さとキッチュが同居した奇しげな人体彫刻を県内各所で発表している久門裕子、筑豊を拠点として活動する中村禎仁が新たに参加、そして昨年から参加した重松希も出品することになりました。そのほか若松在住で版画作家として活動しながら音楽家、末森樹とのユニットで音楽ライブを展開している山福朱実を誘い、若松にあるベラミ山荘と山副印刷工場跡を会場に、版画作品展示とライブを上演、その他、毎週末に参加作家によるワークショップやアーティストトークなどイベントを計画しています。
会期:2025年11月8日(土)~12月7日(日)
会場:さわらびガーデンモール、環境ミュージアム、北九州市立八幡図書館、mama福、
Operation Table、ベラミ山荘(イベント開催日の1日のみ)、山福印刷跡(イベント開催日の1日のみ)
参加作家:河村陽介、重松希、鈴木淳、武内貴子、鶴留一彦+森秀信、中村禎仁、ナカムラタツヤ、野村由香、久門裕子、福地英臣、松野真知、山福朱実、山本聖子
北九州市にぎわいづくり懇話会 令和7年度第2期にぎわいづくり認定事業
会場案内
各会場の休館日は異なり、また若松会場2箇所はイベント開催日のみ開場となっています。以下の情報をご参考に各会場をお訪ねください。
🄰 Operation Table http://www.operation-table.com
805-0027 北九州市八幡東区東鉄町8-18 TEL;090-7384-8169 email;info@operation-table.com
西鉄バス JR八幡駅入口/小倉駅入口から①番七条下車、天神から高速バスいとうづ号約80分七条下車徒歩4分
駐車場4台まであり。
展示作家;全員集合
🄱 さわらびガーデンモール https://www.google.com/search?client=safari&rls=en&q=さわらびガーデンモール八幡&ie=UTF-8&oe=UTF-8
805-0061 北九州市八幡東区西本町4-1-1 TEL;093-681-0697 9:00~17:30
JR八幡駅下車 徒歩1分、西鉄バス 八幡駅入口第二 下車 徒歩1分 駐車場あり(入場から90分以内は無料、以後30分100円)
展示作家;河村陽介、中村禎仁
🄲 北九州市立八幡図書館 https://www.toshokan.city.kitakyushu.jp/branches/yahata/
805-0059 北九州市八幡東区尾倉2-6-1 TEL;093-671-1128
JR八幡駅下車 徒歩15分、西鉄バス 八幡駅入口第一、市立八幡病院下車 駐車場あり(入庫から60分以内は無料、以降30分ごとに100円)
展示作家;久門裕子
🄳 環境ミュージアム https://virtual-eco-museum.com
805-0071 北九州市八幡東区東田2丁目2-6 TEL;093-663-6751 FAX;093-663-6753
JRスペースワールド駅下車 徒歩約5分、西鉄バス 八幡東区役所または製鉄記念八幡病院西口下車 徒歩約10分、東田大通入口下車 徒歩約5分
駐車場 (いのちのたび博物館横「東田博物館ゾーン共同駐車場」30分またはその端数ごとに100円)
展示作家;鶴留一彦+森秀信、野村由香、山本聖子
🄴 mama福 https://www.mamafuku.jp
805-0048 北九州市八幡東区大蔵2-11-14 TEL;093-616-0606
西鉄バス JR八幡駅入口/小倉駅入口から①番大蔵下車、Operation Tableまで(から)徒歩15分、JRスペースワールド駅から徒歩26分
駐車場はお尋ねください。
展示作家;重松希、松野真知
🄵 ベラミ山荘
808-0045 北九州市若松区山ノ堂町16-5-1
JR若松駅から徒歩16分、若戸渡船若松渡場から徒歩20分、高塔山駐車場から徒歩8分
展示作家;山福朱実、山福康政、山本作兵衛
🄶 山福印刷工場跡
808-0031 北九州市若松区西園町13-4
北九州市営バス西園町下車徒歩5分、マルショク深町店駐車場から徒歩5分
会期中イベント
11月8日(土) 14:00〜
オープニング・トーク+レセプション
参加作家で遠隔のヒトはON LINE参加、当日会場に来れない人はヴィデオトークで参加。
会場 Operation Table
参加料1,500円(トークのみは1,000円)
11月15日(土) 14:00〜
鈴木淳パフォーマンス+トーク
会場 Operation Table
参加料1,000円(お茶つき)
11月23日(日) 14:00〜
山福朱実+末森樹LIVE
会場 ベラミ山荘
参加料2,000円
11月29日(土)14:00〜
ナカムラタツヤ トーク+ワークショップ
会場 Operation Table
参加料1,000円(お茶つき)
11月30日(日)14:00〜
山福朱実+末森樹LIVE
会場 山福印刷工場跡
参加料1,000円
12月7日(日) 14:00〜
福地英臣トーク
会場 Operation Table
参加料1,000円(お茶つき)
Operation Table 会場写真
松野真知
1983年北九州市生れ。2010年名古屋芸術大学美術学部絵画学科卒業後、松野牧場就農、うきは市在住。主な個展に「LIGHT OF DAY」(2012 千草ホテル/北九州市)、「Always Fresh, Always the Same」(2021 gallery SOAP/北九州市があるほか、「批評する身体:メディアと社会と表現と」(2018 アートラボあいち/名古屋市)「遠賀川神話の芸術祭」(2021,2022)に参加。「第35回QMACセミナー 松野真知トーク『ドクペルーの映像作品制作に参加して』」(2023, Operation Table)開催。


福地英臣
1973年生まれ。2001年現代美術センターCCAリサーチプログラム修了。2009年から北九州市のアートスペース「八万湯」の運営メンバーとして活動。現在、日本経済大学 経営学部教授。個展「我が身 果てても、愛は 死なない、から、」( 2023 Artas Gallery/福岡市),「Culture サブカルチャー #身体 #場所 #メディア」(2024 IAF SHOP*/福岡県)など展覧会出品及び企画も多数。
重松希
1977年北九州市生まれ。2006年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了。個展に「重松希展 水の流れ・伝う音」(2010 千草ホテル/北九州市) 「ことばをひとつ・重松希個展」(2025 gallery wabi/宗像市)などがあるほか「響きあうアート宗像」(2024 宗像市)、「遠賀川神話の芸術祭2024」に参加。
鈴木淳
1962年福岡県生まれ。1987年熊本大学理学部生物学科卒業。94−95年CASKサマースクール参加。95年より現代美術家としての活動を開始。映像・写真・立体・絵画・パフォーマンスなど多種多様な表現で展開してきた。個展「なにもない、ということもない」(福岡市美術館 2012年)ほか個展、グループ展多数。福岡市のart space tetraにて2025年の1年間毎月1回2日間の「On the Bed 2025, etc.」開催中。「糸島芸農2025」(福岡県糸島市)に参加。
河村陽介
1988年福岡県宮田町(現若宮市)生まれ。2010年九州産業大学芸術学部美術学科卒業。2010年筑豊に戻り織田廣喜美術館にて臨時職員として勤務(2011年辞職)。2012年夏ゴットンアートマジック実行委員、作家兼スタッフとして活動。遠賀川神話の芸術祭2021から参加。現在作家として筑豊を拠点に活動中。
久門裕子
1983年福岡生まれ。2007年東京造形大学造形学部美術学科彫刻専攻卒業。個展に「7ヶ月間の記録〜ここに存在したことを留めておきたい〜」(2011 ギャラリーアートリエ/福岡市)、「久門裕子展」(2020 大川市立清力美術館)ほか「香椎宮アートプロジェクト」(2022, 2024 福岡市)、「信覚寺2024」(福岡県朝倉郡)、「糸島芸農2025」(福岡県糸島市)に参加。
鶴留一彦+森秀信
個別のアーティストとして活動していた2名がが2011年宇部アンデパンダン展を機に結成したユニット。山口現代芸術研究所(YICA)グループ展での発表ほか、ギャラリーSOAPでの「KANMON」 シリーズの展覧会(2014, 2016, 2019)、「ダスト・イズ・マネー」 (宇部市 2017)、「前橋映像祭」、「遠賀川神話の芸術祭」に出品。
野村由香
1994年岐阜県生まれ。2019年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻 修了。主な展覧会に「transmit program 2022」(@KCUA/京都)「神戸六甲ミーツ・アート2024 beyond」(兵庫)、「アーティスト・イン・レジデンス プログラム 2025 あたらしい場所」(アートギャラリーミヤウチ、広島)、「半井桃水館芸術祭 シャンデリア2025」(対馬市)等がある。
山本聖子
1981年京都府生まれ。2006年京都造形芸術大学大学院芸術研究科修了。ポーラ美術振興財団在外研修員としてメキシコシティに滞在(2013)、DordtYart にてレジデンス(2015 ドルトレヒト/オランダ)、2020~25年まで福岡に在住、2024 年 福岡アートアワード優秀賞。「鉄と美術」(2026 北九州市立美術館)に参加予定。現在 広島市⽴⼤学芸術学部彫刻専攻講師。
ナカムラタツヤ
1964年福岡県生まれ。1993年「コンテンポラリーアートの冒険」(IMS,福岡市)以来、美術家として活動。「槻田アンデパンダン」(2017, 筑豊市場/北九州市)、「九州コンテンポラリーアート展」(2019, 佐賀県立美術館)参加のほか、個展「TRACE 記憶をなぞる」(2024 MANOMA/福岡市)、「TRACE 知らない誰かの記憶をなぞる」(2025 bgallery wabi/宗像市)開催。
武内貴子
1979年 福岡生まれ。2004年 福岡教育大学大学院美術科修了。「結び」をコンセプトにした作品制作によるインスタレーションを得意とし、海外でも活動を展開。2018年8月よりスウェーデンに拠点を移す。渡欧後もFUKUOKA WALL ART PROJECTや糸島”Blessing og Light”、 Tiger88 Art Fairなどに参加、絵画作品を発表している。
中村禎仁
1982年生まれ。福岡県田川郡出身。Alternative space hacoでの個展『サラダはじめました』(20110)以降、光と闇をテーマに作品を発表。いいかねPaletteとNPO法人アーツトンネルを拠点に活動。「響きあうアート宗像」(2024)、「筑豊でartする」(2024, Artist Cafe Fukuoka)に参加。2025年10月sleepy cafe noco(嘉麻市)にて個展。
山福朱実
1963年北九州市生まれ。2004年に木版画の制作をはじめる。木版画絵本「砂漠の町とサフラン酒」(2005)、創作絵本「ヤマネコ毛布」(2015)があるほか、石牟礼道子「水はみどろの宮」に挿画を制作し出版(2016)、2017年東京生活から北九州へ帰郷、若松に樹の実工房を構える。末森樹とのユニットで歌とギターによるライブも展開。
遠賀川神話の芸術祭2025に寄せて
進藤真世美
私は芸術について詳しく知っているわけではないし、特に現代アートは敷居が高いという印象がありエッセイを書くというのは何ともおこがましい気がするのだが・・・以前、真武真喜子さんから「わからなくていいのよ。わからないからおもしろいの。」とアドバイスをもらったことを思い出した。そうか私が感じたままをしたためていこう。
芸術祭初日Operation Tableに到着すると、入口横の植栽に鮮やかなオレンジ?柿?と思しきものが飾っていた。どうやら鈴木淳さんの作品の一つらしく、会場に入るとビリー・ホリディの「奇妙な果実」から着想を得、黄色い果実をアジア人に見立てた絵画が展示されていた。日本の住宅に黄色い果実が植えられていることをずっと不思議に思っていたこともモチーフになったそうだ。誰かが「果実が平面に描かれているから、それも奇妙ですね」と言っていた。
後日、鈴木淳さんのパフォーマンス+トークが開催された。展示会場から入り口の植栽までロープで繋いだオレンジを、さらに伸ばして建物を一周していくのを眺めながら、Operation Tableの外壁に展示されているアート作品をじっくり眺めたり、普段は目にすることのない建物の裏手に目をやったり、植物やそこに巣を張る女郎蜘蛛を美しいと感じたりしたのだった。続いて、もう一つのパフォーマンスが始まった。動いている扇風機をいきなり倒し、そのまま会場の壁や床に顔を近づけ低い声で叫び始めた。かつて木に吊るされ命を奪われた黒人たちを悼み、彼らの声にならない叫びを再現したのだろうか。
会場に入るとすぐに、牧場を営む傍らでアーティスト活動をされている松野さんのインスタレーションが展示されていた。毎日何リットルもの牛乳を搾乳するときに使われていたガラス製の管に、牛の真鍮製の鼻輪を加工し重ね合わせた作品と牧場の日常の写真。午後2時ごろだっただろうか、日光が作品に注いでいた。まるで遠賀川の水面のようにゆらゆらと揺れて美しかった。mama福に展示されていたのは、牛乳に含まれるカゼインを使った絵。その白の美しいこと。松野さんの生業である酪農に対する自負がひしひしと伝わってきた。mama福では、会期中は松野牧場の牛乳で作ったパンナコッタやヨーグルトラッシーがメニューに加わっていた。
筑豊出身の河村陽介さんの作品は、自動車の内装作業で使いきれずゴミとして廃棄されている接着剤(メルト)と、今の子どもたちが何であるかを知らない道端に落ちているボタが重なり、どちらも存在すら忘れ去られていることに寂しさを感じたという。メルトを280度で再加熱し成型した作品の中には、河村さんが制作した時の空気が閉じ込められていて、まるで琥珀のよう。「捨てられる運命のものだったのが、今回たくさんの人に見られるのが嬉しい」と述べていた。持続可能な社会を目指すために「3R」(Reduce、Reuse、Recycle)が社会に定着して久しいが、私自身、もったいないと意識するのは目の前にあるモノに限られている。もっと想像力を働かせなければと考えさせられた。
河村陽介さんと同様に、多くの人が気にもせず見過ごしているけれど、密やかに大切な役割を担っているものに着目していたのは、ナカムラタツヤさんだ。誰にも知られず淡々と遠賀川を写し続けているライブカメラを健気に思い、遠賀川の河川敷や橋に蝙蝠傘を差して佇みライブカメラに写し込ませていた。それをスクリーンショットした写真が、蝙蝠傘と共にOperation Tableの手術台の上に置かれてあり、その傍には古い足踏みミシン。『Operation Tableが旗印として掲げている「手術台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい(フランスの詩人ロートレアモン伯爵の詩の一節)」と「遠賀川」が出会った。まとめて一つの作品です。』と説明された。
重松希さんは、鉄工所の片隅を借りて制作活動を続けているそうだ。Operation Tableに展示されていた鉄のオブジェ「うさぎの音楽隊」と遠賀川の美しい風景を描いたドローイングは蜜蝋の間にぴったりの作品だった。mama福にはお店の雰囲気に合う作品(鉄のオブジェと魚などのドローイング)を選んだとのこと。鉄は硬いというイメージを持っていたが、重松さんの作品からはやわらかさが感じられ、今にも音楽が聴こえてきそうな感じがした。個人的にはmama福にあった象のオブジェが愛らしくて好きだった。
ご両親が筑豊出身の久門裕子さんは、ご自身の死生観や宗教観・既視感を残しつつ、空間の中での表現をしているそうだ。もうひとつ大きなテーマとしているのがグリーフワーク。ご自身の喪失の経験から、制作を通じてグリーフケアができないかと考えていらっしゃるという。私自身もこの数年で両親を見送ったこともあり、久門さんのデスマスクのような作品を見つめながら、喪失とどうやって向き合ってきたかを振り返ることができた。他に、男性が河岸のようなところに座り寛いでいるようなほのぼのとした印象を受けるオブジェや、何かに苦悩していたり怒っていたりしている表情をしたものもあり、人間の二面性について考えさせられ少し怖くなった。
中村禎仁さんと武内貴子さんの共通のモチーフは「光」。中村さんの絵には、晩夏か初秋の漆黒の夜と、ご家族がモデルの人物と水たまりに反射する懐中電灯の光が描かれている。キャンバスのほとんどを漆黒の夜が占めているのだが、ほのかな光が描かれていることによって、穏やかで心温まる印象を受けた。
九州で生まれ育った武内さんは、スウェーデンで長い冬の夜を過ごしているうちに、光が人間と密接に関わり、人間にとって光が不可欠なことを実感したと語っていた。スウェーデン語では光も蝋燭も ljus (ユース)という同じ単語なのだそうだ。遠賀川芸術祭に出品するにあたり、遠賀川土器というキーワードに出合い、「人の営みに欠かすことのできない土器は、蝋燭と同じである。人と文化、身体と光。日常と祈りという人間の営みを可視化した作品です」と説明があった。
鶴留一彦さんと森秀信さんによる、今回で11作目になる温暖化をテーマにした映像作品「KANMON11」は、赤間神宮で小雨降る中、傘を差したお二人が背中合わせになって、ただただ佇んでいる。見ているうちに無になってきて、まるで禅問答をしているような不思議な気持ちにさせられるパフォーマンスだった。
Operation Tableには、飯塚市の旧三菱飯塚炭鉱遺構前と小倉の勝山公園内の原爆犠牲者慰霊平和祈念碑前での森さんのセルフポートレートが展示されていた。遺構前の傍には中国から強制連行され過酷な労働を強いられた中国の人々の歴史を伝える記念碑(三菱マテリアルと元労働者が、2016年の和解で取り決めた事業の一環)があるという。平和祈念碑前でのセルフポートレートは、ご自身が長崎の被爆2世であり、ご親族も多数原爆で亡くなっていることと、視界が悪くなければ原爆が小倉に落ちていたかもしれない歴史的事実に、原爆を小倉から見つめてみようと8月9日に黒い傘を差して撮影したとのことだった。戦後80年が過ぎ、戦争体験者の多くが鬼籍に入っている。どうやって次世代に戦争や核の悲惨さを伝えて行くのか、歴史として今ある社会を見つめて行くためにもアートは重要な役割を担うと思う。
野村由香さんは、Operation Tableには和紙に石炭を砕いてドローイングし船の形に折った作品と、石炭と塩田をテーマに広島で発表したドローイング作品を展示していた。調査の過程で、明治初期にたたら製鉄が衰退し、多くの人々が北九州に「広島坑夫」として流れて行ったことや、北九州で採れた石炭が塩作りのために瀬戸内海に送られていた歴史があることを知ったという。その塩田があった地域は、たたら製鉄からの土砂が流れ堆積してできたらしく、人や物の循環や、エネルギーがあるところに人が集まってくる関係性がおもしろく、引き続き石炭に着目していきたいと述べていた。
野村さんは環境ミュージアムにも3つの映像作品を出品していた。その中で畔のような道から風景を映している作品が奇妙な揺れかたをしていたので、後日野村さんに尋ねてみた。それは、かつて炭鉱で、人間とともに地の底で働いていた対州馬の視線で撮られたものだった。坑夫同様に過酷な労働を強いられていた馬に心を向けるなんてすごい感受性をお持ちだ。それにしてもこの3本の映像作品を映すのにどれほど体力を使ったのだろう。私の中でアート=「静」のイメージが「動」に変わった。
学生時代から「鉄とは何か」を考えてきたという山本聖子さんは、Operation Tableには錆びた額の中に酸化鉄で描かれた絵と、鉄の彫刻を展示していた。「BODY」「HUMAN」という文字だけを描いているのはなぜだろうと不思議に思っていたところ、アーティスト・トークで次のように語られていた。「鉄が溶けたり錆びたりする表情は、人間にできる瘡蓋や生傷のように見える。鉄は人間の営みと切っては切れない存在ではり、鉄を考えることは人間を考えることと同じことではないかと考えるようになった」。
映像作品は、オランダでのレジデンスで制作したそうだが、遠賀川の風景にもどこか似ていた。小石が徐々に積み上がり対岸の建物が見えなくなっていく様子は、ボタ山ができる過程を早送りで眺めているような感じがした。
1月4日から北九州市立美術館で開催される展覧会「鉄と美術 鉄都が紡いだ美の軌跡」で山本さんの新作が公開されるので楽しみにしている。
山福朱実さんは、若松区役所が発刊した『石炭と若松 まちの記憶』の表紙絵となった機関車やごんぞう、絵本『砂漠の町とサフラン酒』の中の鉱夫を描いた木版画などを展示していた。「港に山積みになっていた石炭」それが、山福さんが幼い頃に目にしていた若松の港の風景だという。取り壊されてしまったが、発掘された初代門司駅遺構にあった石炭ガラがふと目に浮かんできた。
真武さんが若松は遠賀川神話の芸術祭には欠かせない所だからと、若松のベラミ山荘と山福印刷工場跡で山福朱実さんと+末森樹さんのライブが開催された。ベラミ山荘では、真武さんからのリクエストにより「昭和歌謡」が中心のライブだった。翌週の山福印刷工場跡ライブでは、医師であり漫画家で音楽家のぜちさんも加わり、末森樹さんのオリジナル曲「振り子」(ドキュメンタリー映画「杳かなる(はるかなる)」の挿入曲)のギターソロからスタートした。ここは山福康政さんがご存命の時には多くの文化人が立ち寄る賑やかな場所だったと聞く。今は、山福さんご自身の木版画のほか、ゆかりのあるアーティストの作品(上野英信さんの版画も!)が展示されていてギャラリーも兼ねている。大きな印刷機の一部分も残され、今年もメキシコの「死者の日」の祭壇が設けられていた。
『俺が描いた絵が『トレパク』?冤罪だと叫んでも、終わらない地獄が待っていた』
最終日には、タイトルだけでも興味をそそられる福地英臣さんによるトークが開催された。福地さんは黒色でプリントされたマンガかアニメをモチーフにした作品を出品していた。トークでは、最近SNSで炎上した社会問題から、そもそも写真とは・・・と写真の成り立ちや絵画との関係性を、歴史を紐解いて説明してくださった。プリンスの絵にまつわるウォーホル財団の裁判のこと、著作権や肖像権についても大変勉強になった。
福地さんは、漫画やアニメなどポップカルチャーのイメージを連想させる作品を「現代美術における批評とはどういったものなのか」を考えながら作品を制作しているそうだ。近年はアートが経済的資本的価値ばかりが論じられるようになってきたと憂いているようだった。今、芸術文化で批評が熱いのはマンガだと語っていた。
会期中に開催されたナカムラタツヤさんによるワークショップにも参加した。ナカムラさんは建物のヒビをテーマに酸化鉄で作品制作をされているが、それを参加者に使わせてくださった。酸化鉄は乾いていく過程で化学反応により日々変化していくという。何枚かチャレンジした中からナカムラさんが選んで送ってくださる予定なので、どんな芸術作品?に変わっているのか楽しみだ。
最後に記しておきたいのは、今回Operation Tableオーナー真武さんが振る舞った石炭の黒と遠賀川サーモンをテーマにしたお料理のお品書き。
「ニセキャビア+とびっこ卵のせ」「黒オリーブ+チーズ+バケット」「サーモンレバーペースト+バケット」「黒豆ごはんのおにぎり」「イカスミパスタ」「れんこん黒ごまきんぴら」「ひじき・枝豆・鶏ささみ黒ゴマそうめんサラダ」「黒カレー」「サーモン大根マリネ」
真武さんのお料理もまたアートだった。
[遠賀川神話の芸術祭2025 実行委員]